AI-OCRを活用したインボイス制度対策を考える

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    2023/08/29

1.インボイス制度とは

皆さん、こんにちは。

突然ですが、近頃「インボイス制度」という言葉をCMやニュースで耳にする機会が増えてきていないでしょうか? 今回は、インボイス制度開始後の買い手(受け手)側の対策について考えてみたいと思います。

インボイス制度とは、消費税の申告や控除に関する新しい制度で、2023年10月から始まります。目的は、消費税の適正な納税を促進することです。

インボイス制度ではこれまでの商売の流れに追加で、以下の作業が必要となります。

①売り手が買い手に対して、消費税の税率や税額を正確に記載した「適格請求書(インボイス)」を発行する必要があります。

②買い手は、インボイスを保存しておく必要があります。

インボイス制度自体についてもっと詳しく知りたい場合は、以下のサイトを参考にしてください。

国税庁のインボイス制度の概要

 

インボイス制度に対応するために必要な事項として、

・適格請求書発行事業者として登録

・インボイス交付方法や記載事項の見直し

・インボイスの保存方法や売上税額の計算等、社内での管理方法の検討

・取引先との認識の共有

などがあります。

今回はその中でも”インボイスの保存方法や売上税額の計算等、社内での管理方法の検討”に焦点を当てたいと思います。

消費税の発生するやり取りでこのインボイスの発行が必要になるということは、膨大な量の書類/データを保存し、取り扱うことになります。

それらを管理するには電子化して取り扱いしやすく管理しておくのがよいでしょう。しかし、すべての取引を電子データに一斉に切り替えることなど現実的ではありません。

 

2.インボイスを効率的に保存するために、AI-OCRが利用できる

書類での取引を継続しつつ、インボイスを適切に保存するにはAI-OCRが手段として候補にあがります。

AI-OCRとは、AI技術を取り入れた光学文字認識機能(OCR)のことです。

AI-OCRは画像データに記載されている項目ごとの文字を抽出し、文字データに変換することができます。この機能をインボイスにも適用することで、インボイスの保存・管理が効率的に実施できると思われます。

AI-OCRの活用事例については、以下のBTC過去コラムにて、ファーストアカウンティング社のAI-OCR製品Robotaを使い、「経理部門での活用を想定した、請求書PDFと経費精算システムのデータの整合性チェック」に活用できる事例を紹介しています。

AI-OCR使用事例(ファーストアカウンティング社の「請求書Robota」)

このような事例はあるものの、「インボイス制度で必須要件となる登録番号や税率ごとの金額も、本当にそんなうまく読み取れるの?」という懸念が存在することは当然のことと思います。

次章からは、AI-OCRを上手に活用しながらインボイス制度対策をするためには、領収書や請求書はこうしておくとよい、逆にこういうパターンは上手くいきにくいというお話をさせていただきます。

 

3.AI-OCRを通して見えてきた、領収書/請求書の理想的な形式

このコラムの執筆が2023年8月頃で、インボイス制度への過渡期。世の中の領収書/請求書を実際に見てみますと、

・課税業者で、すでに適格請求書(インボイス)の要件を満たした形で発行されている

・課税業者だが、まだ要件を満たしていない

・今後も、免税業者として従来の形での発行が見込まれる

など、さまざまなパターンが確認できます。

この章では、AI-OCRという強い味方とともにインボイス制度対策をしていくうえで、「こういう領収書/請求書であれば理想的で問題なし!」、「もう少しきちんと書かれるよう改善してほしい…!」という例をいくつかご紹介します。

※なお、以下では、BTC過去コラムでもご紹介したファーストアカウンティング社のAI-OCR製品Robotaでの読み取り結果を元に、ご紹介しています。また、実際の領収書/請求書を載せることはできませんので、簡略化した図にしています。

 

◎理想的な形式

(1)適格請求書としての必要事項が、人の目でわかるように印字されている

下図のような場合、国税庁の例示物と同様に登録番号、10%税額、10%合計金額、8%税額、8%合計金額の各項目が明瞭に印字されていて、理想的な形です。これであれば10月以降もOKですし、AI-OCRで十分に対応できるでしょう。

登録番号・税額とも正しく読み取られる例

 

(2)登録番号の記載方法はまちまちでも、人の目でわかるように印字されている

請求書に記された登録番号一つをとっても、発行業者によって記載箇所は請求書の上下左右さまざまで、フォントもまちまちです。

でも、大丈夫です! このような場合でも、Robotaは登録番号を精度良く読み取ってくれます。登録番号が紙面のさまざまな箇所に記されていて、項目名も揺れていたり、間にハイフンが入っていたりする場合もあるのですが、実際に正しく読み取れていることを確認できています。

今後もさまざまな箇所に書かれるパターンがあることが予想されますが、明瞭に印字されている限り、大きな問題はないと考えてよいでしょう。ただし、まだ学習が追いついていないAI-OCRの場合は、こういったさまざまな形式の記載方法を学習させる必要があるかもしれません。

登録番号読み取り可能な例

 

(3)手書きだが明瞭に書かれている

印字だけでなく手書きでの場合も、明瞭に書かれているものはRobotaで読み取れます。

下記の例の場合、合計金額、10%税抜合計金額、10%税額、いずれも手書きでしたが、税額「10%」という内訳が手書きで記載されており、各値を正しく読み取れていました。この記載内容であれば、消費税観点ではOKでしょう。なお、この後に出てきますが、手書きは少しのブレが誤読に繋がり得るので、注意は必要です。

合計金額、10%合計金額、10%税額、いずれも読み取れた例

 

今後、手書き用のテンプレートは、10%、8%の記入枠が印字で明確に設けられたものが使われていくと予想され、人が見るべき(AI-OCRが読み取るべき)項目はわかりやすくなっていくのではないかと期待されます。ただし同時に、これまで見慣れない書き方のものが増えることにもなるので、インボイス制度開始後に発行される多くの領収書/請求書を元に、AI学習を繰り返してさらに精度を上げていく必要も出てきそうです。

 

(3)補足 手書きの中で印字をうまく混ぜている

手書きの領収書とはいえ、さすがに登録番号まで手でいちいち書くのは手間です。そこで、すでに対策されている飲食店の一例として、ハンコで登録番号を押しているパターンをご紹介します。

登録番号をハンコで押印する工夫をした例

 

これであれば、登録番号が正しく読み取られます。ハンコでなく、プリンタでテンプレートに予め登録番号を印刷して用意しておくのもよいでしょう。

「領収書 インボイス制度 テンプレート」などとWeb検索しますと、登録番号や、税率ごとの税額・金額の記入箇所を明示したサンプルが多く出てきます。そのようなテンプレートも活用して「登録番号」欄にハンコや印刷で予め登録番号を入れておくことで、手で書く手間も省けますし、正確な領収書を発行できますね。

インボイス制度を機に経費精算システムを見直して印字に変えてもよいですが、なかなか切り替えは難しいと思われます。手書きを続ける場合も、長い数字を手でいちいち書きたくはないので、このように手間のかかる箇所は手書きを避けた形で発行するのがよさそうです。

 

✕改善されてほしい形式

(1)税ごとの合計額・税額が十分に書かれていない

下図の請求書は、消費税が書かれていて一見良さそうなのですが、よく見ると税ごとの合計額・税額が書かれておらず、適格請求書の要件を満たしていません。お菓子は軽減8%、送料は10%のはずで、それらの合計額と税額が書かれているべきです。

AI-OCRは「書かれているものを読み取る」ので、たとえば10%合計額(税込であれば1,045円が書かれるべき)や税額(95円が書かれるべき)は書かれていないため、読み取り結果なしとなります。読み取り結果なし、という結果を元に「要件を満たしていない」という判断まではできてアラートを出せるものの、AI-OCRの読み取り結果を使った突合が満足に行えず、結局その後人が内容を目で確認することになってしまいます。

もちろん、課税業者であれば、これにさらに登録番号も記載されていなければなりません。

赤枠内あたりに、8%、10%ごとの合計額・税額が書かれるべき例

 

(2)登録番号でなく法人番号のみが書かれている

惜しい! これでは「適格請求書発行事業者としての登録番号」とは判断がつきません。

法人であれば、基本的にこの法人番号の頭にTが付いて適格請求書としての登録番号となるので、必ず登録番号を記入するべきです。これは6月頃にたまたま目撃した請求書例でして、おそらく今後10月までに改善されるでしょう。

登録番号でなく法人番号が書かれてしまっている例

 

(3)人の目でも判別が難しい

再び手書きダミー領収書に登場してもらいますが、下図のように区切りのカンマ「,」と書きたかったところを、数字の「1」とも見えるような書き方にすると、AI-OCRで合計金額を「401700円」と読み取ってしまう可能性があります。

これを「401700円」と読み取っても、2章で紹介したような突合チェックでは不一致となるでしょうし、領収書内の税額の合計と合わないという検知もできるので、アラートを出して人の目で確認することは可能です。ただ、チェック担当者の負荷削減の観点では、明瞭に記入した領収書/請求書が発行される方が絶対に良いです。

カンマ「,」にも数字の「1」にも見えてしまう例

 

もちろん印字の領収書でも、かすれている場合などは誤読しやすくなります。手書きだけでなく印字でもそうですが、人の目でもわからないものは無くしていく、というのが望ましいといえます。

その他、登録番号の記入欄までは設けているがまだ中身は記載はされていないものや、「9月度分よりインボイス制度要件を満たすように記載します」の旨のみ記載されているものなど、過渡期ならではの状態で、まだ適格請求書としての要件が満たされていないものが見られています。今後10月までにどうなっていくか、引き続き見ていきたいと思います。

 

この章でご紹介した、理想的な形式、改善されてほしい形式それぞれの例をまとめると、下表のようになります。

😀理想的な例😀
適格請求書の必要事項が明瞭に印字
紙面のどこかに登録番号が明瞭に印字(多少表記が揺れていても問題ない)
明瞭に書かれた手書き(ただし、テンプレートも活用して極力印字とするのが理想的。登録番号はハンコでも可)
😢要改善の例😢
適格請求書の必要事項が記載されていない(2023年10月の発行までには適格請求書としての要件が満たされると期待)
登録番号でなく法人番号が印字(同上。改善期待)
人の目でも判別が難しい(明瞭に記されるとよい)

 

4. おわりに

最近は買い物をするとついクセでレシートを見てしまうのですが、一部のお店では要件を満たし始めている一方、まだまだ全体の課税業者数に対して、登録番号や税ごとの合計額・税額が記載されている数は少ない印象を受けます。

10月までに適格請求書を発行できるように、各業者で準備をされている時期かと思います。今後発行側の業者から、3章の◎のような形で理想的な領収書/請求書が発行されていきますと、AI-OCRも活用しやすくなるため、受け手側の業者の経理業務が効率化され、ひいてはこの国の業務の無駄が減ることに繋がるのではないでしょうか

BTCでは、AI-OCRを活用したRPAを単純に開発するだけにとどまらず、世の中の動向を見ながら、状況に応じたベストな方針で開発することを心がけています。インボイス制度対策含め、領収書/請求書のチェックや起票業務の効率化をお考えの方は、まず一度BTCへご相談いただければと思います。

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